東洋学園大学 100周年

「心のアンテナ」をたてる

(現)学術情報施設群 図書館 課長 寳迫佳苗

4月、新年度の始まりの頃に本郷キャンパスの図書館に足を踏み入れると、最初に目に入るのは「新生活応援」という展示コーナーかもしれない。大学での学び方についての本、一人暮らしを始める人向けの本、悩みごとの相談にのってくれそうな本…。東京ドームが見える窓側では「大学生のうちに読みたい100冊」を展示している。本学の教員が学生に薦める本を、そのコメントとともに紹介している。次は壱岐坂通り側の通路を奥に向かってぶらぶら歩いていってみよう。「本学教員の著作」、「映画・ドラマの原作本」、そして左に曲がって電動式の集密書架の前に行くと絵本のコーナーがある。季節がめぐると「新生活応援」は「ホラー・ミステリー・フェア」、「お仕事小説」…、絵本コーナーは「春の絵本」から「雨の絵本」、「夏の絵本」…と変わっていく。学生たちが思い思いに本を手に取っている。

1.利用者支援プログラムのスタート
このような企画展示が本格的に始まったのは2006年、図書館の利用者支援プログラムの立ち上げに伴ってのことである。プログラムは「情報リテラシー」と「エンパワーメント」の2つに分かれており、「情報リテラシー」は文字通り学生に情報リテラシーを身につけてもらうことを目的としていた。一方「エンパワーメント」は本を読むおもしろさを知ってもらい、知的世界への興味を引き出すことを目指したもので、企画展示はその一環である。私たちはこれを”「心のアンテナ」をたてる”と呼び慣らわしていた。当初は本郷・流山両キャンパスの職員5名が担当し、議論と試行錯誤を重ねながらプログラムを展開していった。主任司書のKさんは私たちが思い切ってチャレンジできるよう、たいていは辛口の、時には優しいアドバイスを通して背中を押してくれた。記録を読み返していると、当時の熱意が思い出される。このコラムでは利用者支援プログラムのうち、企画展示について振り返ってみたい。

2.好奇心をくすぐる企画展示の歴史
企画展示で一番難しいのはテーマを決めることだと思う。担当者はブレインストーミングでアイデアを出し合ってきた。
日本語を様々な切り口から捉えた「日本語と遊ぼう」、

ジャンルは問わず表紙が青色の本を集めた「青い本」、

学生が親しみを感じそうな同年代の作家の小説「若手作家の作品を読んでみよう!」…。「若手作家」は学生の反応がとてもよく、約2か月の期間中に26冊を延べ108回貸出ししている。

2008年に流山で「今年は〇周年!」を企画したが、これはこの年が日本人のブラジル移住開始100周年だと知ったのがきっかけだったと記憶している。新聞記事データベースや年表のような資料を駆使して、記念となるような、あるいは知っていると楽しいのではと思われる出来事を調べあげた。レファレンスサービス(利用者からの質問に応えて情報や資料を提供すること)のスキルアップにもつながったと思う。他に取り上げたのは「東京ディズニーランド開園25周年」、「東京タワー開業50周年」、「源氏物語執筆1000年」等である。流山の図書館は広かったので展示スペースをかなり自由にとることができた。ブラウジングルーム(廊下と図書館入り口の間にあった、当日の新聞を掛けていた部屋)を使って手作りの年表を貼りだし、合わせてクイズも作った。例えば「東京ディズニーランドオープン時の入園料(アトラクション別)はいくら?」といったような問題で、正解は館内の展示コーナーに行くと分かる仕組みにしたのである。


2007年~2009年、2015年~2016年には「読んでみよう」という、他ではあまり聞かないユニークな試みがあった。本そのものではなく、その中身を展示した、と言ってよいだろう。物語をWordに入力してフォントサイズ58で印刷し、連載の形で掲示したのである。
主担当だったSさんは「苦労したことは、まず作品決めです。星新一の作品を取り上げてみたかったのですが、著作権切れのものから選ばなければならなかったので、青空文庫(著作権が消滅した作品を検索・閲覧できるサイト)を片っ端からチェックして、学生が興味を持ちそうな作品を皆で探した記憶があります。」と当時を振り返っている。取り上げたのは宮澤賢治の『ツェねずみ』、新見南吉の『二ひきの蛙』等6作品である。『ツェねずみ』は5,000字程度の作品だが連載は24回にも及んだ。本郷ではエレベーターを待つ間に読めるようエレベーターホールに掲示した。Sさんは、立ち止まって読んでいる学生の姿を見てとても嬉しかったことを記憶している。

3.「大学生のうちに読みたい100冊」の始まりと広がり


現在まで続いている企画で大がかりなものとしては、2010年に始まった「大学生のうちに読みたい100冊」がある。どのように働きかけたら学生は本を手に取ってくれるか四六時中悶々としていた頃(それは今もそうなのだが)、他大学の図書館の方から、自分が知っている教員が薦める本なら学生の反応が良い、と聞いたのがきっかけだった。お薦めのコメントがついていれば尚更だ、と。
それで思い出したのが東洋女子短期大学の教員による「学生に薦める本」である。1996年に教員主導で始まったものを途中から図書館が引き継ぎ、2002年まで続けた。「寸評」つきの書名リストが残っている。『ソフィーの世界』、『悪童日記』、『Schindler’s list』…。一人で10冊も推薦していたり、英語が専門ではない教員でも英語の原書を読むことを薦めていたりと、当時の短大の雰囲気が感じられる。
「大学生のうちに読みたい100冊」は、一人につき3冊の推薦があればその数になるだろうという手前勝手な見積りをして準備を始めたが、甘い考えだというのはすぐに分かった。展示の趣旨を説明した上で専任教員と他部署の職員に依頼したところ、集まったのは16名からの29冊。3割にも満たなかったのである。慌てて両キャンパス図書館の9人で必死に本を選びコメントを考え、なんとか4月の展示開始に間に合うよう100冊を準備することができた。集まりが悪いのはひとえにこちらの準備不足、説明不足によるもので、年度末の繁忙期の中、快く協力してくださった教員や他部署の職員の方にはあらためて感謝を申し上げたい。今までの展示よりはるかに多い数の本を短期間で整理して並べ、ポップを作成し、持ち帰りできるリストも用意した。派遣職員のAさんが作成したポスターには「同じ本でもいつ出会うかによって全く違うもの。教職員が選んだ大学生の今だからこそ読んでほしい本を紹介しています。」という一文をつけた。
計画の段階では、きっとその人が学生時代に読んで感銘を受けたいわゆる「名著」が揃うのだろうとこれまた勝手に予想していたのだが、それは良い意味で裏切られ、集まった本はバラエティに富んでいた。『星の王子さま』、『似て非なる友について』のようないわば正統派といってよいような本もあれば、『トイレのポツポツ』(食品会社を舞台にした小説)といった本もあった。なぜこの本を?と思ってお薦めコメントを読むと納得できるものばかりで、教職員が学生に読んでもらいたい本をどのような視点から選んだかをよく理解できた。これだけ趣きの違う本が揃ったのだから、学生も何かしら興味を持てたのではないだろうか。1年間で学生への貸出は延べ248冊になった。

教員がコメントつきで薦めている本だから、それを読んだ学生がフィードバックできるような仕組みも用意した。手書きの「感想コメント」を書く、文字数は150字以上で上限はなし、という条件で、3点投稿すれば景品(「お楽しみプレゼント」と呼んでいた)を、5点投稿なら図書カードを贈ることにした。最初の年は51件のコメントが寄せられた。本と教職員のおすすめコメントに加えて、学生の感想コメントも展示することができた。
翌年、よく書けているコメントを表彰してはどうかとM図書館長から提案があったので「東洋学園大学読書大賞」を設けることにした。第1回の受賞者は3名。賞状と副賞は学長から授与された。2014年からはこれもM館長の提案でイラスト部門を追加することになった。本を読んで感じたことを文章ではなくイラストで表現するのである。イラストはしおりに仕上げて配布することにした。今でも入手できる。文章とイラストの両部門に投稿した学生もいた。表彰されたことが良い刺激となってモチベーションが上がり、資格試験に見事合格した学生もいる、という話も聞いた。

4.企画展示が生み出す本との出会い


ところで、このようなコメントつきお薦め本の企画としてはかつて「くちコミBooks」があった。2005年に始まったもので学生と教職員の両方から投稿してもらい、コメントを添えて展示していた。投稿は図書館のウェブサイトからできるようにしたのだが、今ではごく普通のことだけれども、当時は画期的だと感じたものである。
担当者のMさんはその頃のことを「出勤して端末をチェックした際、投稿があったと分かったときの喜びは今も覚えています。誰かが図書館に対してアクションしてくれていると実感できたことが、とても嬉しかったのだと思います。図書館員と教員、学生が一緒に図書館をつくっていく、そんなことを目指していたのではないかと今振り返って感じています」と語っている。
学生からは小説なら『坂の上の雲』、『陰日向に咲く』、『ダ・ヴィンチ・コード』、ノンフィクションなら『だから、あなたも生きぬいて』、『佐藤可士和の超整理術』等が投稿されて興味深かった。「くちコミBooks」は2011年まで続けた。

「100冊」に話を戻そう。推薦図書は毎年募集し、入れ替えながら継続している。改善を重ねて手際が良くなり、周囲の理解と協力もかなり進んできた。教員からは「夏休みに読む本を選ぶ時は来年の推薦を意識している」、「(推薦の依頼を受けて)今年もこの季節がやってきましたね」などと言われたりした。また、ブックレビューを書く授業にも取り入れられている。オープンキャンパスのキャンパスツアーでは必ず紹介されるコーナーでもある。

ここに書いてきた以外にも、少しでも学生が興味を持てるようにと考えて職員全員で知恵を出し合い、教員や他部署の助けも借りながら企画展示を続けてきた。「本郷の街を知ろう」、「よむ!きく?みる!?クラシック」、「ねむり」…。展示した本は延べで優に7,000冊を超える。今これを読んでくださっている卒業生の方が、なんとなくでもいいから思い出せる本がもしあったとしたら、それは嬉しいことである。本を読むのにふさわしい時期は人それぞれ。学生時代に手に取ってはみたが読めないで終わったとしても、その後の人生のどこかで再会できるかもしれない。「心のアンテナ」をたてるのに遅すぎるということはない。その日のために多くの本と出会う手助けをするのが私たち図書館職員の務めなのだと信じている。