東洋学園大学の前身である東洋女子短期大学において、2000年4月に児童英語教育課程が開設された。これは、1998年(平成10年)に告示された小学校学習指導要領の総則において、「総合的な学習の時間」を設けることが示され、その学習活動の内容として「国際理解に関する学習の一環としての外国語会話等を行うときは、学校の実態等に応じ、児童が外国語に触れたり、外国の生活や文化などに慣れ親しんだりするなど小学校段階にふさわしい体験的な学習が行われるようにする」という文言が盛り込まれたことが背景にある。
() https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/cs/1319944.htm
東洋女子短期大学においては、中学・高校の英語教員免許取得が可能であったが、児童英語教育ブームの到来を感知していた学生たちから、「小さい子どもに英語を教えたい」という要望が上がり、教員側もそれに応えるために児童英語教育課程を準備することとなった。児童英語教育に学外で長年携わってきた教員や、英語発音指導法の専門家、英語圏の子どもの文化の専門家などの教員がチームとなり、学生たちが子どもに英語を教えるために必要な知識と技能を習得し、将来の職業として活かせるように、必要な科目がそろえられ、その単位をすべて取得した学生たちには卒業時に「児童英語教育課程修了証」が交付されるシステムが出来上がった。
児童英語教育課程において重要な実習場所としては、千葉県流山キャンパス近隣のみやぞの保育園の協力を得ることができ、夏休み終了直前の3日間や、ハロウィーン、クリスマスなどの時期に学生たちは自作の教材を使って熱心に保育園児に向けてレッスンを行い、子どもたちが学ぶ姿を観察し、振り返りの時間には率直な意見を述べあって、着実に力をつけていった。
その中でも、入試の面接試験のときから「自分は東洋女子短大で児童英語教育を学び、子どもの英語の先生になりたい」と明確にビジョンを述べていたR.S.さんは、短大卒業後、オーストラリアにワーキングホリデーに行き、シドニーの児童英語教育専門学校で、J-SHINE(小学校英語教育推進協議会)というNPO法人の資格も取得し、帰国後は、保育士養成の専門学校にも通って保育士の資格をとり、みやぞの保育園の正式の児童英語教師として採用が決まった。
1998年告示の学習指導要領が実施された2002年4月からは、日本全国各地の小学校で、「総合的な学習の時間」に外国語会話を導入する学校が増加の一途をたどり、流山キャンパス近郊の八木南小学校からも、英語教育のサポートに東洋女子短大の力を貸してほしいという依頼が入り、2004年から、坂本が中心となって、学生数名を連れて、この小学校の英語授業の支援に行くことが始まった。前述のR.S.さんは、この折にも、大いに力を発揮してくれた。
2006年3月をもって東洋女子短期大学が閉じられると、坂本は東洋学園大学に異動し、児童英語教育課程もこちらに引き継がれた。「児童英語教育ゼミ」も担当することとなり、都内の小学校、本郷キャンパス近郊の学童クラブや保育園で実習をさせていただくようになる。2011年の東日本大震災後には、被災地支援ということで、福島の小学校にゼミ生とともに実習に入らせていただき、震災後に励ましの絵手紙を送ってくれたトルコの子どもたちとの交流プロジェクトや、オンラインを使って世界の子どもたちと国際協働学習をするNGOアイアーン(iEARN)にも参加して、ネパールや台湾、パキスタン、ウクライナ、ヨーロッパの国々との交流のお手伝いもするようになった。英語ネイティブの先生や各国から本学に来てくれるインターンたちにも協力を仰ぎ、福島まで同行してもらったことも何度もある。
トルコとの交流プロジェクトが始まったときから、英語を使って子どもたちが発信するメッセージの内容は地球環境保護や日本文化紹介が主だったが、2015年にSDGsが提唱されてからは、プロジェクトのテーマはさらに明確にSDGsに沿ったものとなり、Education for Sustainable Development (持続可能な開発のための教育)としての外国語教育を目指すこととなった。そして、そのためには、CLIL(Content and Language Integrated Learning :内容言語統合型学習)という学び方がふさわしいという考えのもと、子どもたちの思考力を伸ばすための言語活動、考えたことを述べるために必要な英語表現をターゲットとすることなどを重視して、学生たちは授業案を練ることとなっていく。
また、その目的に合った絵本の活用ということも必然性をもって取り入れられ、学生たちは自作の絵本や紙芝居を持って小学校や学童クラブにでかけ、実習をする機会が多くなった。もとになる英語絵本がある場合や、学生がまったくオリジナルで絵本を構想して作るケースもあった。児童英語教育ゼミには、絵のうまい学生が多く、卒業製作として、精魂込めた絵本製作を行い、それを使った授業案作成、それに基づいた実習と振り返りレポートをセットとしてやり遂げた学生の数は、卒業論文を執筆した学生数よりも多いと思われる。
R. U.さんも、児童英語教師になる夢に向けて大学1年から4年間、着実に力をつけてくれた学生である。大学近隣の保育園でアルバイトをさせていただき、そこで絵本を使った児童英語のレッスンを行って園長先生の信頼を得て、保育士の資格も取得してそこの保育園に就職が決まった。
児童英語教育実習として、英語絵本『スイミー』の読み聞かせをしているR.U.さん
2017年に告示された学習指導要領では、その前文において、教育の目的は「持続可能な社会の創り手の育成」であることが明言され、それまで「外国語活動」として実施されていたものが、小学校高学年においては、「外国語」という正式教科となり、「外国語活動」は中学年において実施されることとなった。これを受けて、保育園でも英語レッスンを取り入れたいというニーズが増え、現在は本郷キャンパス近隣の保育園年長児を対象に実習をさせていただいている。2024年はパリのオリンピック・パラリンピック開催に合わせて、「児童英語教育指導法」の授業時間を利用して、担当の高橋まり先生がパラリンピック競技であるボッチャをテーマとした英語レッスンを実施した。本学にある本物のボッチャのボールを使っての活動に子どもたちも意欲的に取り組み、TPR(Total Physical Response:全身反応法)という児童英語教育の理論を用いて、体を動かしながら”Throw the ball!”などの英語表現に慣れ親しみ、ボールの色も英語でred/ blueなどと言えるようになる楽しくて充実した内容となった。(参照:) 本学ホームページお知らせ
MIRATZ本郷第二保育園の年長児対象に実施した英語を用いたボッチャのレッスン
パラリンピックを扱いながら、体も動かすこの英語レッスンは、SDG3「すべての人に健康と福祉を」、SDG10「人や国の不平等をなくそう」、SDG17「パートナーシップで目標を達成しよう」を目指したものとなっている。児童英語教育課程自体は廃止が決定したが、世界共通語といえる英語を用いながら、より良い世界を創る地球市民を育てることに貢献できるような児童英語教育は本学において、「児童英語教育法」という科目の中でこれからも継続されていく。