お知らせ
山梨日日新聞が井原久光教授のコラムを掲載
2016/01/22
1/17(日)の山梨日日新聞3面に、東洋学園大学現代経営学部学部長である井原久光教授のコラムが掲載されました。
時標
地方創生 人と知恵こそ生かせ 井原久光 東洋学園大教授
昨年、韮崎市まち・ひと・しごと創生総合戦略策定審議会の委員長を務めた。学生時代の山岳同好会以来の山梨県とのご縁だった。
まずは勉強のため、県庁別館にある「山梨近代人物館」を訪れて驚いた。この地には「ファーストペンギン」(先駆者)がこんなに大勢いたのかと圧倒され、歴史ある建物の中でしばらく時を忘れたのを覚えている。そして5月にスタートした審議会が大詰めを迎えた時に、大村智氏(北里大特別栄誉教授)がノーベル医学生理学賞を受賞した。
審議の過程で、大村先生が「ヒーリングアート」の先駆者で、故郷の韮崎に美術館を建てたことは聞いていたが、人柄を深く知ったのは受賞後の報道を通じてであった。山梨が人材の宝庫だということは、審議を通じてうすうす感じてはいたが、今回の総合戦略策定ほど人材とネットワークの重要性を実感したことはない。武田信玄ではないが「人が城(戦略)づくりの要」だったのである。
今回の戦略策定は、国の総合戦略を踏まえて、(1)仕事するなら韮崎市(2)移住するなら…(3)子育てするなら…(4)安心と健やかなら…をキーワードとする四つの基本目標を設定。内藤久夫市長が提唱する「チームにらさき」の考え方に基づき、市役所内に「戦略チーム韮崎」を立ち上げ、職員と市民が協同して戦略のたたき台を作った。
その上で、私たち審議会が市民、農工商の産業界、労働界、教育界、金融機関、ジャーナリズムを代表する各委員の専門的な知識と経験を生かした助言や提言を行った。
通常の自治体の戦略づくりは市長の方針に基づくトップダウンで行われるケースが多く、戦略策定に関する審議会も形式的になりがちである。だが同市の場合、コンサルタントを入れることなく、施策を最もよく知っている職員が市民と一緒になって素案を練り上げ、それを積み上げていくというボトムアップの手法をとったことになる。
このため、素案が十分できていなかった最初の数回の審議会では委員から厳しい指摘もあり、私もいささか声を荒らげることがあったが、最後は立派な総合的かつ戦略的な計画が完成したと自負している。なにより職員の意識が変わり戦略的な視点を持つことができるようになったのではないかと思っているし、市民の参加を得たことで、もっと市民目線に立ったより良い行政ができるようになるのではないかと期待するからだ。
全国に目を広げると、少子高齢化で財源が限られている中、高度成長が望めないならば、巨額の赤字国債に頼る政府がこのまま大盤振る舞いを続けることができるわけがない。そろそろ国民一人ひとりが補助金をあてにする「寄らば大樹の陰」的な気持ちと決別しなければならないであろう。
特に地方創生においては、地域をよく知る市民(住民)一人ひとりが住んでいる地域のこれからについて真剣に考えていかなければならない。大村先生が「金がなければ、知恵を出せ。知恵もなければ、汗流せ」と若い研究者に檄を飛ばしたというが、それは科学の世界ばかりでなく、地方自治でも同じことである。
これからはNPOや市民団代が行政機能の一部を担って汗をかく必要があり、行政も市民視点に立って行政サービスの効率化と質の向上を目指していかなければならない。まさに「ないものねだりより、あるものさがし」でいかなければならないということである。
いはら・ひさみつさん 1952年東京都生まれ。東洋学園大現代経営学部長。専門は経営学およびマーケティング。千葉県流山市市民参加推進委員会委員長。著書に「テキスト経営学」「ケースで学ぶマーケティング」(ミネルヴァ書房)、「社会人のための社会学入門」(産業能率大学)など。2016.1.17
(2016年1月17日 山梨日日新聞より)