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特別講座「アジア共同体の新しい視角」第11回報告:米軍の新戦略とアジア

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2021.12.06

一般財団法人ユーラシア財団 from Asiaの助成による特別講座「我々は『ステークホルダー』−アジア共同体の新しい視角」(科目名:アジアの社会と文化)。12/3(金)に行われた第11回では、東アジア共同体研究所上席研究員の須川清司氏にお話を伺いました。

東アジア共同体研究所上席研究員 須川清司氏

須川氏は内閣官房専門調査員、民主党政策調査会部長等を経て2020年より現職。

政治の第一線で活躍された経験をもとに、国際問題に関する鋭い知見を披露していただきました。

まず冒頭で須川氏は、先日の安部元首相の「台湾の有事は日本の有事」という発言を引き、「あなたは台湾を守るために中国と戦争しますか」という問いを投げかけました。
テレビ朝日の調査によると、台湾有事の際に自衛隊は米軍とともに行動する必要が「ある」と答えた人は45%に上ったそうです。
しかし、それは中国と戦争することの意味を分かったうえでのことか、と疑問を呈されました。

では台湾有事、そして日本有事とはどんな事態なのか。
須川氏は想定されるシナリオとして、「台湾が独立すれば、中国は台湾の海路・空路を軍事的に封鎖。対して米軍は日本の在日米軍基地を拠点として台湾に部隊を派遣。自衛隊も米軍と共同作戦を行い、中国軍との戦闘状態に突入する」との例を挙げました。
在日米軍基地は全国に点在するため、戦闘がエスカレートすれば、勝ち負けに関係なく日本は大きな被害を受けることに。
その可能性は小さいと言いつつも、「情緒に流されない判断を下すことが重要」と述べました。

想定されるシナリオを踏まえ、次は米中の軍事バランスの現状はどうなのかという話題に。
須川氏はいくつかの数字を挙げ、「世界の軍事支出に占める割合は米国が39%、中国が13%、核弾頭の保有数は米国が5550発、中国は350発、等々。中国が猛追しているものの米国の軍事的優位は崩れてはいない」としたうえで、「米国は地理的なハンディキャップがあり、地上発射式中距離ミサイルでは中国が優位に立っているため、アジアでの軍事的優位は揺らぐ」と指摘されました。

さらに、米国の対中戦略の見直しにも言及。中国は「A2/AD戦略」という、日本列島から台湾へと通じる第一列島線、小笠原からグアムに通じる第二列島線の二段構えで米軍の行動を阻止する戦略を講じているそうです。
一方、米国は、中国の中距離ミサイルの射程内に留まり作戦を遂行する「スタンド・イン」、射程外に退いて遠方から攻撃する「スタンド・アウト」の2つの戦略の間で揺れ、現状ではその結論は先送りにされて機密扱いとなっているということです。

一方、日本の軍事戦略の課題について、須川氏は「日中間での軍事力格差は10年前にはすでに逆転して中国が圧倒的に優位にあり、戦闘状態になれば、日本は大きな被害を受ける」と断言。
こうした現状分析を踏まえて、最後に「単純な中国脅威論だけでは日本は生き残れない、そのためにも〈曖昧戦略〉を追求する必要がある」と提言されました。
曖昧戦略とは、米国に追随するだけでなく意見もし、中国に同調できなくても意思疎通を欠かさないスタンスを意味するとのこと。
矛盾やわかりにくさを恐れない外交戦略がこれからの日本に必要だという須川氏の見解をもって今回の講座は終了しました。

今年度は2022年1月まで全14回にわたり、様々な講師を招くオムニバス形式で開講。
一般の方々もZoomウェビナーで聴講が可能です。

次回は12/10(金)、講師に日本企業(中国)研究院院長の陳言氏を迎え、「中米デカップリングの中での中日経済」というテーマで実施します。

講座の詳細や参加申し込みはこちら
https://www.tyg.jp/koukaikouza/oneasia/index.html