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教育・研究
ディスり、プロパガンダなどについて言語哲学者・大ヒット新書『悪い言語哲学入門』著者和泉悠氏がゲスト講義
2023.06.29
6/21(水)・22(木)、グローバル・コミュニケーション学部の1年次科目「グローバル・コミュニケーション入門」(依田悠介教授)で南山大学准教授の和泉悠氏をゲスト講師として招聘。
「『悪い言葉』は、なぜ悪いのか?」を考える基準や、“言葉のトリック”についてお話いただきました。

和泉氏は言語哲学・形式意味論の中でも日本語名詞表現を中心に研究を行っており、研究の成果の社会への還元を積極的に行なっている研究者です。

和泉悠氏
講義冒頭、「悪口が『なぜ悪いのか』を考えると、意外と難しい」と和泉氏。
「言葉が人を傷つけたとしても、その言葉自体が『悪い言葉』とは限らない」と見解を述べ、「言葉の大事な役割の一つに、“状況を作り出すこと”がある」と説明しました。

さらに、その場で受講学生から悪い言葉か判断の難しい言葉を募集し、「意外と頭いいね」「よく食べるね」など一見普通なのに、「ディス」と捉えられることがある言葉をピックアップ。
「悪口は人間関係におけるランクを作り出し、位を落とす“劣位化”という状況を起こす。人間関係の中で潜在的になっていた優劣を表明するものが“悪口”であるのではないか」と、悪い言葉がなぜ悪くなるのか、基準となる一つの指針を示しました。
講義後半は、言葉のメカニズムを応用した“言葉のトリック”を紹介。
ぼかし表現やミスリード、フェイクニュース、プロパガンダの実例を挙げながら、言葉による印象操作の手段・パターンについて紹介しました。
最後に和泉氏は、「悪質なコミュニケーションは身近でも起こり得る。注意を払い、言葉で人を操作したり、操作されたりしないように身を守ってほしい」と学生にメッセージを送って講義を締めました。
質疑応答では、「外国人を“外人さん”と呼ぶのは失礼か?」「“お前”など、昔は丁寧だった言葉がなぜ悪口になるのか?」「友人間での軽口が悪口にならないのはなぜか?」など、学生から様々な質問があがり、一つひとつ丁寧に回答いただきました。

質疑応答では学生から様々な質問が
講演を聞いた学生からのコメント:
「南山大学和泉先生の講義から、“悪口”がどのようなものなのか、どのような効果があるのか、またどのような表現が“悪口”になるのかについて学びました。今まで“悪口”について客観的にどのようなものなのか考えたことがなかったため、言われる人の社会的立場の問題であるということを知りとても面白いと感じました。今回の講義から、言語学意味論の面白さを学び、また言葉の定義について疑問を持つ楽しさを学んだため、今後の学業や生活に活かしたいと思いました」(グローバル・コミュニケーション学部 宮木杏さん)
また、6/21(水)には東学理論言語学コロキアム(世話人:依田悠介教授)において「情報化社会社会における攻撃的言語使用」のタイトルで一般向け講演※2を実施。
講演においても、言語のダークサイドと名詞句の研究の関連、そして研究の社会還元の必要性についてお話をいただきました。
コロキアムに参加した学生のコメント:
「和泉先生のお話を聞き友人にも悪口とはどういうものかを説明したところ、『確かに考えてみればその劣位説は色々な事に合点がいく』と話していて、自分も授業を聞く前まではそのように思っていました。和泉先生のお話を聞き依田先生のゼミ生として悪口を使用する際の発話者の心理状態、コミュニケーションとして悪口を用いている場合はあるかなど、複数疑問に思うことが出来て研究したいと思えることが出来ました。和泉先生のお話がなければこのような疑問も出てこなかったと心の底から思います。ありがたいお話を聞かせていただいて本当にありがとうございました。また何か機会がありましたらお話聞かせていただければ幸いです。」(グローバル・コミュニケーション学部 蟹澤歩さん)
※1東学理論言語学コロキアムについては依田悠介教授(yusuke.yoda@tyg.jp)まで
※2 なお、本講演に関しては分散形態論の語彙挿入メカニズムの研究:日本語助数詞に注目して:研究代表者依田悠介(22K00537)の後援を受けています。
授業を担当する依田悠介教授のコメント:
「和泉先生の近著「悪い言語哲学入門」(筑摩書房. 2022)を拝読しその内容は私の授業に対して大きな影響を受けました。言語学者・哲学者はこれまで自身の狭い研究領域の研究にとどまり、ある種の「象牙の塔」を形成してきていたと思います。そのような流れの中で、和泉先生をはじめとして近年の若手研究者は自身の研究成果を社会問題に還元し、より善い社会を目指して活動しています。
そのような研究者としての姿勢を実際に見ることにより、本学学生、教員にとって研究者のあるべき姿が問われた気がしています。また、学生にとっては、これまで遠く離れて非現実的であった「哲学」や「言語学」が身近な社会問題に関連していることの気づきになったのではないかと考えています」