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教育・研究
中東和平に向けて日本が問われる役割とは。特別講座「未曽有の大変局のなかでアジア共同体の未来を語る」第13回
2025.01.16
本学では、一般財団法人ユーラシア財団from Asia助成による特別講座を開講しています。今年は「未曽有の大変局のなかでアジア共同体の未来を語る」という全体テーマのもと、アジアの諸問題に関する専門家や有識者を講師として招へい。
全15回のオムニバス形式で講義を行います。

12/12(木)に開催された第13回は、講師として一般社団法人現代イスラム研究センター理事長の宮田律氏にご登壇いただきました。
今回の講義テーマは「日本は中東和平にどのように貢献できるか」。
アジアを理解するためには中東問題の理解が不可欠であることから、中東問題の専門家である宮田氏を講師として招聘し現代の中東問題の根源であるアラブとイスラエルの対立を軸に、世界と日本の動向を解説いただきました。
講義冒頭、宮田氏は国際法上の権利である「各民族はそれぞれの運命をみずから決定する権利を持ち、独立国家のもと文化的・経済的繁栄を築かなくてはならない」という「民族自決権」について言及。
しかし、「パレスチナ人たちは民族自決権を訴える基礎となる土地をイスラエルの入植地の拡大によって侵食され続けている」と述べました。
続いて、アラブ・ユダヤの対立の歴史に沿って解説。
宮田氏は、「古くからユダヤ人に対するヨーロッパ各地での差別やナチスからの迫害が、イスラエル国家成立の重要な背景となった」と指摘し、「現地のパレスチナ人を排除・排斥し、パレスチナにユダヤ人国家を作ろうとする『シオニズム』が現在の対立をもたらしている」としました。
さらに、第一次大戦時に、アラブ・ユダヤの対立関係が顕在化し、イギリスの「三枚舌外交」により国際的な問題に発展したこと、その後の会議においてパレスチナにユダヤの故国としてイスラエル建国が認められた経緯、第二次世界大戦後の国連決議によるパレスチナ分割案を欧米諸国が推進した背景について解説。
その結果パレスチナ分割案を巡る問題が長く続く中東戦争にまで発展し、国連安保理決議がされたにもかかわらず、イスラエルの侵略、パレスチナ難民の大量発生など「今なお紛争がおきている」と指摘しました。

宮田氏
講義後半は、「近年になってシオニズムの破綻が見えてきた」という中東問題の現状と、日本の対パレスチナ政策について言及。
宮田氏は「日本政府はイスラエルとパレスチナの二国間解決を唱えながら、アメリカ同様パレスチナ国家を承認していない」と指摘し、「サンレモ会議において利権を優先した日本の立場など、歴史的に見ると日本にはパレスチナ問題に一定の道義的責任があると考えられる」と語りました。
一方、日本はガザに関する即時停戦決議への賛成表明、パレスチナ難民救済機関への支援など、中東問題への取り組みをしているものの、「紛争を終結させるためには、同じ領土問題を抱える国として、よりパレスチナ問題に関わるべきであり、日本の良識が問われていている」と宮田氏の見解を述べました。
終盤には、ガザの空爆の様子を伝える画像や動画も紹介され、今なお続く紛争のリアルな状況と向き合う講義となりました。
講義終了後には質疑応答の時間が設けられ、「日本の報道でガザ地区の紛争に関心が引いた原因は?」「アラブ世界にも最近ではイスラエル側についている国が増えたが、なぜもっとアラブ世界のために団結しないのか」といった質問に対し、丁寧な回答をいただきました。
同講座は本学学生が履修するほか、一般の方も受講可能な公開講座として開講されています。
各回の講師・テーマ、聴講のお申し込み方法は以下ページよりご確認いただけます。
一般財団法人ユーラシア財団 from Asia 助成 特別講座
https://www.tyg.jp/koukaikouza/oneasia/index.html