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【公開講座】第4回「主権者教育を再考する―ハンナ・アレントの「主権」論批判を手がかりに―」

地域間連携,教養教育

2025.09.09

幅広い教養(リベラルアーツ)を学ぶ今年の「公開講座」は「『問いただす、今の教育。つなぎ直す、未来の社会。』―初等・中等・高等教育を越えて考える、子どもと社会のこれから―」をテーマに、全6回の講座を開催します。

2025年度も、多くの方々に生涯学習の機会を提供するため、都心の本郷キャンパスでの対面に加え、オンラインによるライブ配信も同時開催予定です。

第4回は6/28(土)に開催し、50名の方にご参加いただきました。

前回の第3回(6/7開催)と、今回の第4回は“中等教育の分岐点で―「個」と「政治」、そして学びの意味の再構築へ。”がテーマです。

第4回は「主権者教育を再考する―ハンナ・アレントの『主権』論批判を手がかりに―」と題し、本学グローバル・コミュニケーション学部の樋口大夢専任講師が講演を行いました。

講義前半では、まず「主権者教育」の背景と現状について解説。
「主権者教育」は、日本においては2016年に公職選挙法が改正され、選挙権年齢が満18歳以上に引き下げられたことで注目されるようになったそうです。
樋口専任講師によれば、その源流は2006年の「教育再生会議」にあるとし、「ゆとり教育からの転換」をはじめとした教育改革の流れの中で、「主権者教育を充実させる方針」が示された経緯を説明。
近年の教育業界における「主権者教育」の盛り上がりについて紐解きました。

続いて、そもそも「私たちは主権者なのか?」という根源的な問いかけから、憲法前文の一部や西洋思想家の「主権」や「主権者」をめぐる議論を元に、その問いに対する樋口講師の見解を提示。
複数の国民は多様な意見や価値観を持っているにもかかわらず、単数の存在である「主権者=国民」に統合したり、「正しい判断」ができる主権者へ教育したりすることが「主権者教育が目指すこと」なのか?という疑問を提起しました。

講演の後半では、この問題提起に対し、第二次世界大戦後にアメリカで活躍した政治理論家ハンナ・アレントの議論を基に考察。
樋口講師は、アレントの「政治は複数の人間によって成り立つ」という視点に基づいて、一つの「正しい」判断を下す主権者へと多様な子どもたちを教育することが有する危うさについて言及。
最後に、「主権」を前提とするのではなく、主権者教育を見つめ直すことの重要性を訴えて、今回の講義は終了。講演後には、参加者から「学校現場における主権者教育の現状」に関するものから、ハンナ・アレントやルソーの思想にまでおよぶ多数の質問が寄せられました。

樋口講師は一つひとつの質問に丁寧に答え、参加者の問題意識の高さがうかがえる、有意義な質疑応答となりました。