Academic Life & Research
教育・研究
我々は何を知っているから言葉が話せるのか?言語学者・阿部潤氏がグロコミ学部でゲスト講義
2023.06.01
5/25(木)、グローバル・コミュニケーション学部の「日英語比較論」(依田悠介教授)に、言語学者の阿部潤氏をゲスト講師として招聘。
「言葉の構造としくみ」をテーマに、お話しいただきました。

阿部氏は、本学の前身である東洋女子短期大学で専任教員を務め、現在も精力的に研究成果を発信し続けている、世界の言語学研究を牽引する研究者の一人です。

阿部氏
講義冒頭、「“言葉”とは、コミュニケーション手段というだけのものなのか?」と問題提起した阿部氏。
「人間はコミュニティや社会に参画することで言葉を学んでいくが、ごく短い文を理解するためにも、単語の意味や単語間の関係、主語や形容詞…数々の概念を知っている必要がある。それを単に“社会的約束事”と片付けていいのだろうか」と述べ、複数の例文を使いながら言葉の構造を読み解き、人間の持つ言語能力と関連付けながら解説いただきました。
最後に阿部氏は、「人間が言葉を話せるようになるために知らなくてはならない規則がある。そして、それらがあることによって我々は言葉を話している。言葉は、“コミュニケーションの手段”“社会的約束事”という以上に複雑なものになっている」と述べて、講義を終了。
人間のみが持つ「言葉を話す能力」について、アメリカの言語学者N. チョムスキーが提唱した生成文法理論に立脚して、その奥深さ、そして、言葉を研究する意義について考える機会となりました。
講義に先立って5/24(水)には、言語学研究ゼミ(依田悠介教授)で「Bottom Copy Pronunciation in Japanese Passives」というテーマでも阿部氏にご講演いただきました。
講演では、最先端の言語理論を用い単語の並び順が生み出す効果、それに経験的な根拠を示しながら言語に構造が存在するという考え方が正しいことを示されました。
講演には、本学教員・学生が参加し、最新の理論言語学の議論に親しむ貴重な機会となりました。

受講した言語学研究ゼミの学生のコメント:
「わたしは、講演と授業の両方を聞くことができました。講演の内容はゼミで学んでいる内容とも類似している点が多々あることがわかりました。講演の内容は私には難しいところもありましたが、人間は知らず知らずのうちに、こんなにも複雑な言語のしくみをつかっているのだと考えるきっかけとなりました。また、日英語比較論では、阿部先生が話されていていた言語には法則があること、そして、生成文法という考え方が「自然科学」の手法をとっていることを学びました。生成文法に関する授業を通して、言語能力がコミュニケーションのために存在するのではないという新たな学びもありました」(3年次ゼミ生 片岡さん)
「私は講演に参加したが、講演は専門的な内容で私には理解が難しい部分がたくさんあったが、言語学者がどのように考えているのか聞ける貴重な機会でした」(4年次ゼミ生 三浦さん)
「講演に参加しましたが、内容はとても高度でした。しかし、数量子のスコープに関わる話は授業でも出てきた内容で親しみが持てました。阿部先生の講演は自分にとって有意義な機会でした。また、講演の後にもお話をする機会があり、自分にとって学びの多いものとなりました」(4年次ゼミ生 吉田さん)
「日英語比較論」および「言語学研究ゼミ」を担当する依田教授のコメント:
「“言語能力”の解明は人間の本質の解明に対して意味のある研究で、非常に興味深い研究分野です。なぜ人間だけがこのような複雑な言語を操る能力を持っているのか、また、本当にその能力は人間だけに生得的に備わる能力なのか、は興味深いテーマです。
弊ゼミでは、世界に存在する6000余とも言われる言語の分析を通して人間とはいかなる存在かに対してアプローチしています。言語能力の解明は最近よく話題に上がるChat GPTなどの生成形AIの研究・発展にも寄与すると考えられています。また、言語にかかわる能力の解明は、理論言語学だけでなく、脳科学・神経科学・心理学・データサイエンスの諸分野との隣接領域であり、グローバル・コミュニケーション学部での学びの中核をなす研究分野でもあります。
この領域で世界を牽引する研究者に本学でご講演いただけたことに心より感謝いたします」
※なお本講演は科学研究費助成事業22K00537:「分散形態論の語彙挿入メカニズムの研究:日本語助数詞に注目して」(研究代表者・依田 悠介)による支援を受けています。