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[公開講座]中東情勢におけるアメリカ大統領選挙の影響、新型コロナウイルス感染症の現状とは。公開講座第4回報告
2020.11.16
10/27(火)、2020年度の「公開講座 リベラルアーツ」第4回をZoomウェビナーにて開催。講師にNHK解説主幹である出川展恒氏を迎え、「変動と緊迫の中東情勢」というテーマでお話しいただきました。

講演では、まず、イスラエルとアラブ諸国の国交正常化の背景とパレスチナ問題への影響。続いて、アメリカ大統領選挙を注視するイランの戦略とイラン核合意の行方。そして、新型コロナウイルスの感染拡大が中東諸国に与える影響についてお話しいただきました。
今年8月、イスラエルとアラブ首長国連邦が国交正常化で合意し、続いて9月には、イスラエルとバーレーンが国交正常化で合意しました。どちらも、アメリカのトランプ政権の仲介によるもので、9月15日、ホワイトハウスで調印式が行われました。背景には、トランプ大統領の再選戦略、および、イスラエルと湾岸アラブ諸国に共有されたイランに対する脅威認識があります。その後、イスラエルは、スーダンとも国交を正常化することで基本合意しました。こうした動きについて、パレスチナの指導部は、アラブ連盟が堅持してきた、中東和平の基本原則を蔑ろにする「裏切り行為」だとして激しく反発しています。これは、イスラエルがすべての占領地から撤退し、東エルサレムを首都とする「パレスチナ国家」の樹立を認めることを条件に、アラブ諸国がイスラエルとの国交を正常化するという内容で、「アラブ和平イニシアティブ」というものです。パレスチナ側は、イスラエルの占領が事実上容認され、国家独立の目標実現が遠のく状況に、危機感や孤立感を募らせています。

NHK解説主幹 出川展恒氏
次に、6~7月に、イラン国内各地の軍事施設や核施設で、原因不明の爆発や火災が相次ぎ、敵対するイスラエルの関与が疑われている情勢について解説していただきました。トランプ大統領は、オバマ前政権の最大の外交成果である「イラン核合意」を崩壊に追い込み、制裁圧力をかけ続けることで、イランを交渉のテーブルに引きずり出し、遥かに厳しい内容の新たな合意を結ぶことを目標にしており、そのことが自らの岩盤支持層の支持固めにつながると考えている。一方、民主党のバイデン前副大統領は、核合意に復帰すると公約していることから、イスラエルとしては、イランに対する脅威認識を共有し、要求を受け入れてくれるトランプ大統領の在任中に、イランの核開発能力をできる限り削ぎ落したいと考えたと見られる、との解説でした。
最後に、新型コロナウイルスの中東諸国への影響について解説いただきました。イランが中東では最も多い感染者と犠牲者を出していること。サウジアラビアなど湾岸アラブ諸国にも感染が拡大しており、背景として、イスラム教のラマダンや巡礼などの宗教行事、アジア諸国などからの出稼ぎ労働者が、「3密」の状態を作り出していることが指摘されました。イエメンやシリアなど内戦が続いている国では、感染拡大の実態を把握することさえ困難なこと。世界的な原油価格の低迷で、中東各国の経済にも深刻な影響が出ていることなどが解説されました。
質疑応答では、解決の見通しが立たないパレスチナ問題をどう打開するかや、アメリカ大統領選挙で政権交代が起きた場合の想定されるシナリオについてもお話しいただきました。
詳しくはこちら 公開講座 リベラルアーツ